短編作り7つのコツ

「漫画 短編 コツ」という検索で来る方がとても多いので……僕なんかがコツを披露すると言う無理を承知で*1、だいたい誰に対しても言えそうな範囲の事を書いてみます。「雑誌に投稿する、初めてストーリー漫画を描くような人」を想定しています。

1.作品の規模をざっくりとページ数に合わす

例えば料理ならば、素人でも「1食分に10kgの食材は多すぎる」と想像がつきやすいのですが、漫画は描き始める時に「そのページ数に対してどのくらいの内容が適当なのか」という判断が難しく、とんでもない間違いをしやすいのです。もちろんこれは、1作目を描く前の人にとってはつかみにくいことだと思いますが、だいたいの見当はつけましょう。

特に「テーマが大きすぎる」と、大変な徒労が待っています。それはお茶碗にフルコースディナーを盛りつけようとするような愚行なのです。普通に考えて何百ページにもなりそうな題材は避けましょう。そういうものしか描きたくないという方は、最初からその何百ページを描ききってしまい、発表の場所は後から探すのがいいかもしれません。

「登場人物」も厳しく絞ります。作風にもよりますが、32ページくらいなら内面まで描かれるようなメインの人物は1〜2人にしておかないと苦しくなる事が多いと思います。脇役は「この人の台詞は必要でも、顔は出さずにすませられないかな」とか、「同じような役柄のキャラは一人にまとめられないかな」など、人数を削る事を意識して、そのぶん主人公達をたっぷり描写します。なんとなくどうしても削れないキャラが出てきてしまうこともありますが、一応はキャラを絞りこむことを考えるわけです。

モブとして多人数が出るのはかまいません。ただチョイ役はチョイ役として、目立ちすぎないように小さく、人間性も深く出過ぎないように加減します。

作中の「時間の制約」も、話をまとめつつ盛り上げる基本テクニックです。次の日…また次の日…などと何日もだらだら続くのではなく、まとめられる所は一日のうちに片付いてしまうように設定やストーリーを組み替えると話がダレにくくなります。

2.構想を膨らませてから削る

適切なサイズのストーリーのイメージが持てたら、そこに盛り込むアイデア、やってみたい事、描いてみたいシーンや絵、キャラに言わせてみたい事などをうんと膨らませて落書きしてみます。それが作品のイメージの種になります。

初心者の漫画は要素を盛り込みすぎて読みづらくても多少大目に見てもらえますし、逆にスカスカしていると、枯れて寂しい感じがしてしまいます。出し惜しみせずに今あるアイディアをどんどん盛り込んでみましょう。漫画を描く前に温めていた自分のアイディアが、描いてみると「あれっこんなものか」というくらい使える部分が少なくて、あっという間にストックがつきてしまうのは良くある事。むしろもう何もないと思える自分の中から面白要素を見つけてきて、面白を盛り込み続けられる人を目指します……なんて書くとすごく大変そうでしょうか。でも本当に「足してから引いて完成させる」のはコツだと思います。

プロットやネームを描く前の構想段階というのは大事です。キャラ作りやストーリー作りのテクニックが面白くなってくると、素の自分の視点を持ったまま構想を練る熟成期間を省いてしまいがちになりますが、それでは作品の中身が何となく乏しくなってしまったり、作っていてなかなかしっくりくるアイディアが出てこなかったりします。

実際に描き進むと、「やっぱりこの要素は入りきらなかった」とか、「この要素は全体に調和してない」とか「テンポを悪くして邪魔になっている」と分かる事があります。その時は潔くバッサリ削ります。削る時はつらくても、そのように「足してから引いて」作った作品は良いものが多くなると思います。

3.主人公に感情移入できなければ失敗

ドラマチックな話でもさっぱりした話でも、普通のストーリー漫画ならどこかで、「主人公に感情移入していなければまったく面白くない場面」が出てくるはずです。主人公がついに絶体絶命になるとか、微妙な心の葛藤が描かれるとか。

そこに行き着くまでのページで、読み手を主人公に感情移入させられなければ作品は失敗です。

短編ですから、主人公に感情移入してもらうまでに大半のページを費やすということもあると思います。では最初のほうのページをどうやって読んでもらうかと言うと、「とにかく主人公を絵的に動かして、目で追いかけてもらう(遅刻しそうな転校生が朝パンをくわえて走る理由はこれ)」「読者があれ?と思うようなちょっとした気になる情報を小出しにする」「すぐにもめ事が始まる」などします。

感情移入しやすい主人公も必要です。作者が取り入れたい要素だけでなく、「年齢や立場などで、読み手と共通する部分がある」「人として好感がもてる」「かわいい」「気になる能力やアイテムを持っている」「すごい言動をしそうで目が離せない」「状況的にピンチである」「弱点がある」「悩みがある」「共感できる言動をする」といった主人公向きの要素も考えてみます。

そして主人公の心理が読み手に分かるように描くこと。物事を淡々と語るだけでなく、いちいち主人公のリアクションを入れたり、主人公が行動を起こすまでの心理変化をきっちりもらさず追っていくとよいでしょう。

想定する読み手によってどのくらい説明的にするのが適切かは変わってきますが、作者が思っているほど読み手には話の流れが伝わらないものです。ちょっとベタですが「今のがどういうシーンだったのか」を整理するために、キーワードや人物名を「ダメ押しのセリフ」として主人公に言わせる手もあります。

4.説明はなるべく小出しに

初心者がストーリー漫画を描く場合は、基本的に、状況説明やキャラクターの気持ちなどが「読み手に伝わっているかどうか」を相当気をつけた方がいいと思います。

ただその作品独自の設定や、説明を読みたい人はあんまりいません。伝えなければ面白さがわからない情報は必ずありますので、画で見せるとか、面白く伝えるとか、なんとか工夫してみましょう。堅くて食べにくい料理の素材を食べやすいサイズに切ったり、すりつぶしてあげるような感覚で。

30ページに1ページぐらいなら、どかんと説明が書かれていても大丈夫かもしれません。いっそその方が全体のために良いと言う事もあると思います。ただし、読み手にある程度興味を持ってもらえた段階でやりましょう。食欲が充分そそられていれば、よく噛んでもらえるわけです。

これについては設定を伝える技術 - QFMの漫画技法メモにもまとめています。

5.どんでん返しを用意する

物語の極意は、わかりやすく書くことと、読み手に対して適切な「ひねり」をきかせてやることです。どのくらいひねってあるのが読み手にとってちょうどよいかは漫画を発表する媒体によりますが、幼児の読む「みにくいあひるの子」や「かぐや姫」にもどんでん返しがあるくらいです。

「こうかと思わせて、実はこうだった」というストーリー作りは物語の基本。逆に「どんでん返しが無いのに面白い短編」を描こうとするのは、非常に難易度が高いことです。

方法としては「普通に話を考えていき、意外な結末を思いつく」か、「最初から結末を決めておいて、読み手をミスリードする(勘違いさせながら読ませる)」アプローチがあります。前と後ろから作って行って、起承転結の「承」のあたりが最後にできるというやり方もあるでしょう。

最初は難しいかもしれませんが、どんでん返しができれば「面白かった」と思われる確率が跳ね上がるはずです。*2


ここでは他の「ストーリー作りのコツ」は書きませんが、「きちんと状況が説明できていて」「主人公に感情移入できて」「どんでん返しがある」という条件をクリアするだけで、30ページくらいはすぐに尽きてしまうでしょう。

6.ときどき自分の状態や環境を気にする

ここからは制作技術の話ではありませんが、重要だと思われることを。

漫画は続けて描くことで自然にうまくなります。“コツコツ”でも“バリバリ”でも“なんとなく”でも、やる気の出る環境で描き続けた人が伸びます。

ですから「すごく描きたいと思っている事がある」というのはそれだけで才能です。「漫画は別に好きではないが娯楽を提供して金を稼ぐのが目的」というのも良いと思います。(逆に『漫画を読むのは好きだけど、実は表現したい事は無い』というケースは怖いですね。深入りに注意しましょう。)

なにがなんでも描き上げられる根性があるに越したことはありませんが、そのための環境づくりもコツと言っていいでしょう。ときどき自分の体の状態や環境を改善して「やる気」「余力」「持続性」を高められないか、考えてみましょう。

また自分の「経験」「趣味」「住んでいるところ」「まわりの人」などを見渡して、どんな内容の漫画を描くのに適した境遇かを考えてみると、発見があると思います。「自分が世界で一番うまく描ける事を探す」というのも一つの戦略です。(逆に『今どんなものがウケるか』を考える戦略もありますが、これは漫画好きの人ならそれなりのイメージがあるでしょう。)

7.感想のもらい方

初心者は感想ひとつで大きなショックを受けがちです。「やる気」に直結しますので、感想のもらい方も考えてみましょう。

人に作品を見せる場合、漫画の趣味が近い友人はお宝だと思います。逆にあまり趣味の遠い人の意見を聞いても仕方ないでしょう。もちろんあまり内輪受けになってしまうのも問題ですが、「同人誌を描きたい人」と「新聞の4コマを描きたい人」とではターゲットの広さがぜんぜん違いますし、結局は「好き嫌い」の世界ですから、人の意見を聞けばいいというものではないと思います。僕はネットで漫画を公開した経験はありませんが、わざわざ感想をくれる人は、趣味の合う人が多いかもしれません。

漫画雑誌の賞はその雑誌の編集者など複数の選考委員に読まれる事が多く、その雑誌の色はあっても、プロの目で客観的にテクニカルな意見がもらえる事が多いようです。ただ、投稿者全員が意見をもらえる賞は少ないでしょう。雑誌社への持ち込みは詳しい話が聞ける反面、個々の編集者によって言われる事が相当違うと聞きます。(関連記事:途中から人の提案を取り入れて作品を作るのは難しい

さてウケが悪かった場合、たいていは話が伝わらなかったか、趣味が合わなかったか、絵が下手すぎたかだと思いますが、理由が分からないと「全部悪かったのかな……」とヘコみたくなります。読んでくれた人と直接話ができる場合は、読んでいて「かったるかった所」「なんとなくつまらなかった所」を積極的に聞いておくと、作者には「ああ、なるほど」と分かる事があると思いますので、改善につながりやすいと思います。

では、長くなりましたがこのへんで。

*1:そもそも面白い短編を描くには漫画の基本的な技術がすべて必要でしょうし

*2:これについては「無料創作講座 of あらすじドットコム」というサイトがお役立ちです。用語が少年アクション漫画向けなのと、ちょっと具体的すぎる嫌いのある漫画講座ではあるのですが、ストーリー作りの要点が押さえられていて、特に「どんでん返しを作れ」というアドバイスは秀逸です。