トメの画・ナガレの画とコミスタの3D

漫画は複数の画を同時に視界におさめるので、基本的に一枚の画として均衡がとれたものが描けない。一枚絵として見せるコマが必要ならばふつう見開きか、表紙か、最後のページを1枚使って見せることになる。だから「決め」の絵というのは、あくまで動的な流れの中での「決め」である。

しかしその動的な中でも、読み手によく見てもらってキャラの美しさを印象づけたり、背景の空間を感じ取ってもらいたいような「トメ(留め)」のコマと、勢いを殺さないようにさっさと見てほしいような「ナガレ(流れ)」のコマがある。(トメとナガレはここでの造語。他の呼び方があるかもしれない。)

デッサンに気を使って西洋絵画的に描くとトメの画になりやすいと思う。谷口ジロー先生のような画だ。この画のまま動きをだすなら大友克洋先生のように映画的技法を使ったり、効果線を入れて行く。

一方ペンの流れを重視して平面的な均衡を探りながらやっつけると、流れの画になりやすい。高橋陽一先生のような画だ。この画の人物でトメの画にするには…ちょっと思いつかないが、やはり構図だろうか。ペンタッチを殺したりミュシャのように主線を強調してもよいかもしれない。


以上は漫画描きなら無意識にやってるようなレベルの話だろうが、僕がそれを意識したのは昨日だ。

コミスタで3Dファイルを読み込んで作画すると、そのコマは一気に「トメの画」になりやすい。3Dの描画線に強弱がないこともあるが、「西洋絵画的に描く」の理屈が働くのだと思う。僕は静的な絵柄が好みなので、背景などに多用している。

しかしキャラの装備などを3Dにしてみたところ、画面は引き立つが、ナガレのコマがいちいち静的になってしまい弱ってしまった。

これを「大友的」に構図や流線で動的にしてやるとなると、なかなか時間がかかる。ふつうナガレの画は慣れた図形の組み合わせというか、手クセでばんばん描き進めていいところだ。日本の漫画描きはナガレの画が身についているのが普通だ(デッサンを先にかじると苦労する)。

手早く描けるはずのナガレの画が、描画補助に3Dを取り入れることで、逆にトメの画よりも手間がかかってしまうのである。動的でありながら絵として見せる見せ場(決め)の画は時間がかかってもしかたないが、過半数のコマがこれでは厳しい。

  1. 下書きはぱっぱと手ですすめる
  2. 3Dをあててすぐレンダリング。3Dのことは忘れて平面的な均衡に意識を集中する
  3. レンダリングした線を削り足しして崩しながらペン入れ

というふうにしないと、時間がかかる上に動きも死んでしまう。もっとうまい方法があれば探っていきたい。そのコマのトメとナガレを意識して作画に入ろう。


多くの漫画描きはいちいちトメの画とナガレの画に分類したりせず、両者が複雑に組み合わさった画風を確立しているだろう。漫画教本的には「決めの画は特にいっしょうけんめい描きましょう」で終わる話かもしれない。