「作品のジャンル分け」の意味

評論的な立場や読む側にとっての意味は深く考えた事がないが、話を作る側からすると、話の類型・ジャンル分けには意味がある。

また料理で例える。すべての食材に好き嫌いが無いような人でも、やはりそこには特に好きな食材と、あまり得意でないものがあったりする。料理は素材の味を引き出すという目的もあるが、なるべく万人向けのメニューになるためには、なるべく万人向けの味付けをするものだ。

大ざっぱに言えば、たいがいの料理は甘いかしょっぱいかその中間だ。素材の旨味が足りなければ油や砂糖や野菜や動物性のダシなどである水準まで足してやるのはだいたい共通している。そこまでだと味の方向軸は甘い・しょっぱいの2種類しかないが、それでは「ひねり」が足りないので、素材に応じて辛みや酸味を追加してさらに「ひねる」。しかし人間の好みはそんなに無限ではないので、だいたい大まかに味を完成させる方向性というものが料理体系の中にいくつか現れる。例えば「塩浸け」「甘辛炒め」といった具合に。

物語でそのレベルのジャンルを言うならば、「ラブ・ストーリー」や「戦闘もの」ぐらいの分け方だろう。例えば豪華客船の沈没話はだれもが興味を持つ題材(好物)というわけではないが、恋愛の甘さを足して、なるべく多くの人に受け入れられやすいものにしたりする。「戦闘もの」「勧善懲悪」「変身もの」などは、最初に多くの人が受け入れがたいと思える不安定な状態を見せておいて、それが片付く気持ち良さ(カタルシス)を味つけの軸にしている。その他の古今のジャンルを並べれば、旅行記ロードムービー)・成功譚・報恩譚・失敗談・怪談・美談・猥談・世間話・縁起物などが上げられる。

さらに作り手の都合で、事件が起こりやすい「刑事もの」とか、たいていの人に経験があるので感情移入しやすく背景説明を大幅にカットできる「学園もの」などがある。一般に漫画のジャンルというと、こういうものを言うことが多いと思う。これは料理で言えば、もう少し食材の都合や経済性を加味したジャンル分け、「鍋物」とか「刺身」などにあたるだろうか。

話をそこからひねっていくにしても、どの状態からひねっているのか、今どのくらいひねっているのかを意識するために、考えている話をいったんジャンルにあてはめてみる事は役に立つ。さんざん考え抜いた話が、実はよくある勧善懲悪に行き着いただけなんていう事も、初心者ならよくあるだろう。逆に子ども向けに話をひねりすぎてしまうようなおそれもある。

すでに「◯◯ものが得意」などと自分の型ができている人ならそのジャンルを続ければいいかもしれないが、初心者は話の「素材」しか持っていない事も多い(その反対で、やりたいジャンルだけ決まっていて素材が無いことの方が多いかもしれないが)。今ある素材がどんなジャンルに向いているのか、またどんなジャンルなら意外性が出るのか、また複数のジャンルに股がっているときにどこを軸にするのか、などを考えることには意味がある。