主人公とはなにか、「主人公性」に寄与する属性

主人公は独自の定義で主人公の善し悪しが語られることが多い。その定義はいろいろあると思うが、僕は一般に思われているよりも「主人公性」に寄与する属性はいろいろあると思う。ここでのまとめをしておく。用語は独自。

インターフェイス 作り手と読み手の境界面としての役割。作品設定やコマ割りやカットの構図といった作品全体にインターフェイス性(伝わりやすさ、わかりやすさ)は関与する。「たくさんのコマに登場するキャラ=インターフェイスの大きな部分を占めるキャラクター」と言えるだろうし、それは主人公性に寄与する。物語の「語り部」であることもインターフェイス性に寄与する。
アイコン性 作品を象徴するアイコンとしての役割。物語上での役の重要性は低くても、ビジュアルが特徴的でアイコン性が高いと主人公っぽく感じられる。「ドラえもん」では物語構造的にはのび太が主人公だが、一般にはドラえもんが主人公だとされることも多い。
アバター 読者に臨場感を与える役割。想定読者の身体感覚・社会感覚に近づけるため、ほとんどの作品はヒトが主人公になっている。身体的なアバター性と分けて「感情移入対象性」の項を立ててもよいが、ここでは省く。
リアクター性 例えば授業中に地震が来て終わるだけの話があったら、「うわー!」と叫んだ者が主人公だ。出来事にリアクションを入れる役割は主人公だけではないが、「読み手が感情移入しているキャラ」によるリアクションが最も効果的なので、主人公が最重要リアクション要員である場合も多い。物語はアクションとリアクションによって進行すると勢いが出る。
発端者性 リアクター性の反対で「出来事の発端」になることも主人公性に寄与する。物語の大きな流れの中では「解決者」でも、シーンごとの小さなくくりでは「発端者」となるトラブルメーカー的な性格の主人公は多い。
価値決定者性 物語のなにがハッピーエンドでなにがバッドエンドなのかを読み手に示す役割。さまざまな商業作品がある中で、これを外す主人公はあまりいない。外部に翻弄されるキャラでも、読み手がそのキャラの幸福を願うようにできている作品なら、そのキャラが価値決定者である。
葛藤者性 問題に取り組んだり、精神的な葛藤を行う役割。物語は普通なにかしらの「安定→不安定→安定」の構造を取るが、不安定状態を具現するキャラと言える。人間ドラマでは主人公の精神葛藤が必須だが、アンパンマンゴルゴ13のようなヒーロー(またはアンチヒーロー)ものでは、主人公が精神的な葛藤をしない。
解決者性 物語の大きな問題を解決する役割。これも「読み手が感情移入しているキャラ」による解決がもっとも爽快なので、効果的に感動を呼ぶ技術としてほとんどの作品で「主人公=解決者」となっている。
判定者性 問題が解決したかどうか、判定する役割。冒険ものでは王や姫がわかりやすい判定者になったりするが、現代劇では主人公自身が結果に納得するという形で判定者を兼ねることが多い。

書き出すとわかるが、これは作品で果たされるキャラクターの役割のほぼすべてだ。*1

物語ではたいていこれらの項目を多く占めるキャラクターがひとりいて、僕もそれを便宜上、主人公と呼ぶ。主人公性がもっとも高いということだ。

僕は「主人公は◯◯でなければならない」という主張が嫌いだ。そういう言説は往々にして、物語をダイナミックで感動的にするための装置として適切な主人公をよしとしているにすぎない。主人公性はさまざまなキャラクターに分配されていてもよいのだ。古今の主人公にはさまざまな例外的なタイプがある。

インターフェイス性だけを問題にすれば、「けいおん!の主役は部室だ。」と言った主張も間違いではない。

チェック表

上記を利用して、主人公や重要なキャラクターがうまく動いているかどうかをチェックするための表を作っておく。

チェック項目 意味 具体例
アイコン性はあるか 各シーンや物語全体を象徴する図表として適切か キャラの外見的個性、識別性、シーンを象徴するポーズや小物の工夫
インターフェイス性に問題はないか 描き手から読み手への情報伝達に役だっているか セリフの適切さ、噛み砕いた情報を語れているか、出番の量は適切か、物語を体現するのに適切な存在・立場・能力か
アバター性は充分か 読み手がキャラに対し精神的、肉体的に移入できるか 読み手との共通点がある立場・属性のキャラか、同情できるか、役割的にかっこよさ・かわいさ・憎たらしさなどが充分か、肉感や動きの表現が充分か
リアクション・アクション 起こった事象にリアクションしているか、また事象の発端になっているか 読み手がキャラの気持ちを理解できるような言動をしているか、作品に良いテンポを与えているか
展開に貢献しているか 物語の「問題発生→葛藤や努力→解決→判定」に必要充分にからんでいるか 解決者は適切な段階から登場しているか、問題解決にいたる努力・苦しみの描写は充分か、一連の話がどういう変化や意味をもたらしたか読み手に投げっぱなしにせず示せているか
価値決定しているか 物語のなにがどうなればいいのかを示せているか 今行なっていることの目的ははっきりしているか、そのキャラの価値観や判断基準が(必要な程度)読み手に伝わっているか
一貫性に問題がないか 言動に一貫性があるか 読み手がある程度次の行動を予想でき期待を持てるか、言動がダブルスタンダードになってないか、言動パターンが変わるとき価値観が変化した過程が描かれているか

*1:敵性キャラや問題人物に当たる『問題提示者』を抜いたが、主人公が作品全体の問題提示者であるパターンもある。物語分類でよく言われる『協力者・贈与者』は、分割された『解決者』と考えられる。