プロット作業の要点

コマ割りに続いて「プロット」「コツ」で検索してくる方が多いので、偉そうに言えるような立場ではありませんが、僕のプロット作業での要点を書いておきます。より具体的な事、話をどういうふうに転がすかはマンガの創り方―誰も教えなかったプロのストーリーづくりという本が詳しいです。

ここで言う「プロット」とは、「ネーム(紙面構成)」に入る前の文章だけでやる構成の事です。もともとプロットとは「構想」ぐらいの意味ですが、いろいろ話を聞くと、物語論・映画論・漫画出版社や雑誌編集部・漫画家などによって「プロット」の指す意味はけっこう違うようですね。

漫画は自分ひとりで映画を撮るような作業です。監督も脚本家もカメラマンも役者も自分です。プロット以前の作業は企画部・プロデューサーなどの仕事でしょう。プロットは監督や脚本家、プロット後のネーム作業は脚本家〜撮影監督ぐらいの仕事だと思います。

ですから漫画書きはプロットという作業を通じて、過去の自分の企画や思いつきを点検しながら、未来の自分がネームを描きやすくなるような仕事をしてやります。

プロットに入る前

プロットに入る前は「どうしても書きたい事」や「大まかな筋」や「面白そうなネタ」や「こうすれば面白い話になるはずだという着想・狙い」を頭の中にフワフワ浮かせておきます。

以下の項目では、大まかなストーリー案やキャラは考えてあるものとします。

ただし短編漫画ならば、キャラは基本的性格さえ未定のままプロットに入っていいと思います。話を作っていて「ここで主人公がこういう行動をとらないといけないけど必然性がない」といった場合に、「そういう人だった」というふうにキャラ設定をそこで決めて解決することができるので、僕は考えません。

ストーリーは時間順に出来事を考えるのが思いつきやすいという人が大半でしょう。思いついてない部分は、このプロット作業の中で詰めて行きます。

作業1・箇条書き

「いつ、どこで、だれが、何をする」という箇条書きをしていきます。例えば「太平洋戦争が終結した」というような書き方にしてしまうと、後の「撮影監督の自分」がどんな映像にすればいいのか困ってしまいます。そこでプロットでは「1945年8月15日午後 農家の庭先 主人公がラジオで終戦を知る」というふうに書いていきます。「誰がどうする」と書いて行くのがコツです。「いつ・どこで」は場面転換があるごとに書けばよいです。

箇条書きは簡潔な方がいいですが、より具体的なイメージがあれば欄外にメモしておきます。

作業2・ここでストーリーをひねる

時間順にどういう出来事が起こるのかを、もう思いついている場合。「そのストーリーをベタにそのまま追っていって面白そうか、話が持たずダレてしまいそうか」を考えます。

時系列順にひねらず描いていって面白い話は、料理に例えれば調理のいらない最高の食材のようなものです。実録の戦争ものみたいに内容があってすごみもあるというような題材は、変に構成を凝らず、わかりやすく進めるだけでよいでしょう。

しかし、なかなかそうはいかない場合が多いです。普通に語るだけで面白い話をいくつも持っている個人というのはほぼいません。とくに娯楽性の高い作品ではわかりやすさと新鮮味を両立させないといけないので、なじみのある題材をどう構成するかが重要になってきます。食べ飽きた材料をどう料理するかです。

よくある話でも、ミステリーを仕掛けたり、どんでん返しを用意したり、興味を引くシチュエーションを盛り込むことで、派手にしたり新鮮味を出すことができます。それでもダメそうなら、魅力的な主人公の視点で描きなおしたらどうだろう、などと考え直すことができます。ここではくわしく書けないので、ストーリー技巧はまた別のサイトを探してください。

そういうことはプロット作業のときから考えておくとよいということです。ひねりがない構成のままネーム作業に入ってしまうと、あなたがあとあと苦労します。

作業3・ここで各シーンを対比して検討する

プロットのひとつひとつの箇条書き(シーン)に対して、そこはどういうシーンなのかをひとつひとつメモしていって、同じようなシーンが続いてしまっていないかを点検します。具体的には

  • 「明」と「暗」
  • 「緊張」と「弛緩」
  • 「動」と「静」

のどちらにあたるシーンなのかを書きつけていきます。交互にする必要はありませんが、あまり同じようなシーンが続くと効果が落ちていくのを実感すると思います。

明るい(楽しげな)シーンなのか暗い(悲しげな)シーンなのかは、僕の場合は悲しいシーンが続きすぎて読み手の気もちが落ちてしまわないようにチェックするものです。逆に明るいシーンが続きすぎて話のすごみが足りなくなりやすい人もいるでしょう。

緊張と弛緩は「起承転結」とも関係します。もし全体的にゆるいかんじの話だとしても、作者はその中のどこが起承転結なのかを意識しておきます。逆にハードアクションなどで、緊迫する・盛り上がる・不安定なシーンが続きすぎると、読む方が疲れてしまいます。

「動」と「静」は、絵的に動きがあるか、キャラクターが運動しているかどうかです。静が2つ続いたら、無理矢理でも動くシーンを1つ作っておくと、話がいきいきしてきます(『マンガの創り方』より)。心理描写がメインの話でも、自転車をこいだり、坂道をかけあがったりといった動のシーンが工夫して挿入されていることが多いです。

どちらでもない中間のシーンは、僕は10にひとつあるかないかぐらいにします。あえてどちらかに分類してしまうことで、演出方針がはっきりしてメリハリが出るからです。

こういう点検作業をしながら、じゃあここのシーンはもっと明るくしようとか、説明が続きすぎるシーンを分割しようとか、新しいキャラはここで出そうなどと考えるのがプロットの要点だと思います。こうしてダレにくいストーリーが仕上がっていきます。

作業4・思いついてないストーリーパートがあるとき

そのシーンが思いつかないせいで、前と後がつながらないということは必ず起こります。そのシーンが思いつかないばっかりに、作品が宙ぶらりんのできそこないのように感じられ、はては自分など生きている価値がないなどと思いつめてしまうほどですが、実によくあることでもあります。

それはプロット作業中に解決しておきましょう。まず、思いついている前後のストーリーを書き出します。そしてその「思いついてないけど必要なストーリーパート」には、一体どういう事が求められているのかをきちんと把握します。

問題を把握してさえいれば半分解決したようなもので、けっこう思いつくものだと思います。僕はその作業をしたあとにいったん寝てしまって、起きた時にそのことをもう一度考えるということをよくします。散歩しながら考えるのも、脳が活性化されて良いです。散歩では気が散る人は、机の前から動かないのがいいようです。結局思いつかなかったという経験は、意外なことに今の所ありません。

それは考えているうちに、その作品に欠けているものがだんだん見えてくるからです。「思いついてないけど必要なストーリーパート」はやがて「作品の欠点を補うことができる自由なパート」に変貌し、考えるのが楽しくなってきます。

またプロットで物語を分解してみると、それとよく似た構成のプロの作品を発見できるかもしれません。短編を描いているときに長編は参考にならないことも多いですが、プロはどうやって空白部分をつないでいるのかを参考にできることがあります。

作業5・プロットとネームの間にミニネームで再チェック

漫画では、大ゴマを使うとか、絵的に見せる部分をどこに持ってくるかという構成も必要になります。そのためにネームがあるわけですが、僕はよくネームで迷ってしまうので、A4ノートを16分割して(ノート1ページが漫画16P分のネームになる)、コマは割らずにどんな事を盛り込むのかメモしていくミニネームを描きます。

これは人によって必要があればで、やらなくてもかまいません。作業スピードが速くなる方を選べばいいです。

終わりに

僕はプロット作業が大好きですが、そういう人は少ないと思います。

上にも書きましたが、構成とはひねることではありません。単純な構成の作品、ストーリー構成が見所ではない作品にも傑作はあります。

「そんなに詳しいプロットは書かない」という漫画家さんも多いと思います。それは「だいたいのコード展開を抑えていれば、後は即興で弾いた方がいい演奏になる」というジャズミュージシャンのような感じかもしれません。あとで修正も効くし、といった事もあるでしょう。
つまり重要なのはプロットを書くことではなく、作品に必要な構成をする事です。

そもそも初めて描く人は「このプロットは面白くなりそうかダレそうか」がまだ分からないでしょう。自分の作画技術や、持っているネタのインパクトがよくわからないからです。

ですからとりあえず一作品作って、後からプロットを学んでいくものだと思います。「いいプロットができた!」と安心して紙面の出来に集中していない人よりも、あんがい良い漫画が描けるかもしれません。描いてみて「どうも思ったほどドラマチックにならなかった」「すごい題材を見つけたと思ったのに、描いてみたら普通だった」と感じたら、次のプロットではメリハリをつけたり、もうひとひねり加えてみたりするとよいでしょう。