読み手の天才

漫画の絵は、読者の解釈によって完成する。例えばキャラクターの顔の真ん中にあるチョコチョコとした線を見て「これは鼻のここからここまでを描いた線だな」といった理解の元で絵が成り立つので、漫画文化を知らない人が見ると、あだち充のキャラの顔の真ん中の逆三角形は何を意味しているのか分からないということもあり得る。

漫画は線画であるための制約もあるし、省略表現も多い。小説ほどではないが実写映画などに比べると、受け止める体験が読者の心の中に委ねられている部分が大きい。

ところでネットでいろんな漫画の感想文を読んでいると、「この人は私よりもずっと素晴らしい漫画体験をしているんだろうな」と思うような人のサイトに出会う。

いわゆる感動しやすい「優しい客」というだけではなく、「批評眼が鋭い」というだけでもない。下手な絵の作家でもその世界にどっぷり入り込み、演出的に拙い部分も自分の頭の中でおぎなって、感動できる人がいる。

もしそういう読み手ばかりだったら漫画家さんは甘えて技術が伸びなくなってしまうかもしれないけれど、才能のある書き手だって最初から上手いわけじゃない。まず「読み手の天才」の人たちが未熟な才能を評価して、「読み手の凡才」にも楽しめるような習熟につながるチャンスを書き手にくれている。この基盤が漫画文化を支えているのだなと思った。