作品の都合を全面的に受け入れたヒロインの魅力

爆発的な人気を得たヒロインについて思いを馳せているうち、彼女達はキャラ設定をだいぶ話の都合に譲っていると気がついた。

うる星やつら」のラムが、当初はゲストでヒロイン予定ではなかったというのは割と知られた話だと思う。ヒロイン予定だったはずのしのぶは恋敵としての役割もすぐにフェードアウトし、楽しい仲間達の一人となる。

ラムのしのぶとの違いは、ルックスの面白さだけでなく「主人公のあたるにベタ惚れ」という点がある。登場時のしのぶとあたるは恋愛的に同じ程度の力関係の、普通の恋人同士の一歩手前という感じだった。一方ラムは、第一話のオチであたるを困らせるためという都合で、あたるにベタ惚れになる。あのまったくいい所のないあたるに盲目的に惚れるという、無理を受け入れたところに当時の革新性があった。虎ビキニのルックスも、連載スタートを派手に飾るための「都合」だったはずだ。

ヒロインでなかったことを証明する2話には登場しないものの、3話以降でラムが登場しない回は無い。話の都合を受け入れるということは、それだけ話がそのキャラクターに頼っていて、そのキャラが活躍しているという事でもある。

エヴァンゲリオン綾波レイなどはもう、14才の少女がそれを自発的にやっているとは信じられないような行動をする。彼女は無気力少年シンジを発奮させるために、黙々と死地に挑む女性として設定されたはずだ。エヴァンゲリオンは子供から大人への卒業というテーマがあるから、「ヒロインが母の化身でもあり、父を愛していたが、やがて死ぬ」という流れも必然的だ。

その無理な設定の中で厳しく制限された生活をしている綾波レイが、ただ受け身で可哀想な子だったらつまらない。だから、受け身にしたくないという作品の都合さえも受け入れて、自発的に行動する。結果、すごみが出て魅力的なのだと思う。「あんな奴はいない」で、いいのだ。

先述した「東京ラブストーリー」で連載の進行上、二人がとっとと寝なければいけなかったから「セックスしよ」の台詞が出て赤名リカのキャラが立ったという話もある。


時代の要請で新しいタイプの作品が登場し、その作品の都合を全面的に受け入れたキャラが登場した時、制作者の想像以上の人気を博す大ヒットとなるのではないだろうか。キャラクター先行ではなかなか思いつけないキャラである(2番煎じは無数に現れるが)。

「話の都合を受け入れる男性キャラ」のほうは考察できていないが、同じ結論は当てはまりそうだ。ただ男性キャラはどこかで受け身っぽさを見破られてしまい、都合を受け入れて引き立つ割合が少ないかもしれない、とも思う。

例えば女性向け作品で「変わり者のヒロインに恋をする」ために作られたと思われる男性キャラに「はいからさんが通る」の少尉と「のだめカンタービレ」の千秋がいるが、一気に一途にヒロインを愛する少尉よりも、あまり無理のない心境変化で徐々に振り向いてくれる千秋の方が男性読者には馴染みやすい。どちらも作品都合で登場するパートナーには違いないが、それをリアルな男性像に近く設定できた大人な作品であることが、のだめ大ヒットの一因だろう。少女漫画目線で見れば少尉も印象的なのだが。